宇多田ヒカルの新作「Fantôme」で感じる死生と普遍の親和性

宇多田ヒカルの新作「Fantôme」で感じる死生と普遍の親和性


6年間という人間活動の期間を経て、ついに表舞台へと本格的にカムバックした宇多田ヒカル。彼女から8年振りとなるアルバム「Fantôme」が送り出され、私の胸はいたく高鳴った。

2013年に母である藤圭子を亡くし、2014年に結婚、そして2015年には出産と、休業中に死と生を身近に体験した宇多田ヒカル。本作ではそんな彼女の死生観が生々しく、痛みと希望を交錯させながら伝わってくる。

まず、「サントリー天然水」のCMソングとして起用された「道」。避けては通れない亡き母への想いをストレートに綴った歌詞とは裏腹に、<It’s lonely road/but I’m not alone/そんな気分>と戯けるようなフレーズが炸裂するこの楽曲は、死を前向きに消化しようとする彼女の健気な姿勢が如実に表れ、本作のテーマソング的鼓動を力強く鳴らしている。

また、初の試みでもある、他のアーティストとのコラボ曲も必聴だ。私がもっとも注目したのは、若き新鋭ラッパーのKOHHと制作した「忘却」。お互いにファンだったという二人が双方にインスパイアされながら出来たというこの曲では、虚無的な雰囲気を帯びたサウンドのもと、両者の背負う「死」と「生」の感覚がひりひりと加速する。「地獄」や「喪服」といったヘヴィな言葉が続く中で、共鳴にも似た奥床しい感情がこちらにも生まれるから不思議。ある意味ではこの曲こそ、誰もが抱きうる普遍的な想いを代弁してくれているのではないだろうか。

アルバムのタイトルとなっている「Fantôme」は、フランス語で「幻」や「気配」という意味があり、宇多田ヒカルにとっては最愛の母親の存在を言い替えた表現でもある。喪失があるから、誕生をいきいきと実感出来る。彼女が今の環境と対峙して描いた楽曲たちは、様々な状況下で必死に生きる現代の人びとの姿をも果敢に映し出しているのではないだろうか。宇多田ヒカルにはこれからも、“生”の大切さを変わらずに伝え続けていって欲しい。

文:古賀よしえ

宇多田ヒカル
アルバム「Fantôme」
2016年9月28日発売

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1 道
2 俺の彼女
3 花束を君に
4 二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎
5 人魚
6 ともだち with 小袋成彬
7 真夏の通り雨
8 荒野の狼
9 忘却 featuring KOHH
10 人生最高の日
11 桜流し (「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」テーマソング)

宇多田ヒカル 公式サイト
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